標準治療と臨床試験

 医療の世界、特に最近、癌の治療において標準化、きんてん化、といった言葉がよく出てくる。すなわち、エビデンス、科学的根拠にのっとった標準治療(Standard of care)ということである。しかしながら、医学、医療は日々進歩しており、現時点で何が標準か、を明確にいうことは難しい。そこで、臨床試験が登場する。臨床試験にはいくつもの段階のものがある。新薬あるいは新治療法の安全性を確認するもの、投与方法を決定するもの、有効性を確認するもの、標準治療にとってかわるものかを確認するもの、などがある。それらを経て、新しい標準治療が確立していくのである。
 私は、新しく治療を始める乳がんの患者さんを診る前に、この患者さんにとって、今、われわれが標準治療として提供できるものは何か。さらに、標準を超える可能性(期待)があるオプションとして提示できる臨床試験があるかどうかを検討する。そして、それらを患者さんおよびその家族に理解していただけるように説明する。最終的に患者さんが将来ともに後悔しない選択ができるようにサポートすることが大切だと考えている。
 それは時間がかかることで、当然外来は遅くなる。時には待ち時間が長くなった患者さんから苦情が出ることもある。しかし、これが私の仕事であり、医学の進歩に対する私のささやかな貢献であると思い、実行している。
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