ルポ貧困大国アメリカ

 堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ」を読む。2008年日本エッセイスト・クラブ賞を受賞するなど、評価の高い本だ。
 自由主義という名のもと、行き過ぎた資本主義が国民を、特に貧困層を追い込んでいる現実を、様々な資料やインタビューから丹念に描き出している。
 「国民の命に関わる部分を民間に委託するのは間違いです。国家が国民に責任を持つべきエリアを民営化させては絶対にいけなかったのです。」この言葉は、医療、食品、教育、災害対策、そして安全保障(国防)の分野にあてはまる。アメリカではこれらを民営化した結果、すべてはビジネスとなり、資本家、投資家の利益のために、その他が犠牲にされる(搾取される)構造ができあがってしまったという。
 医療に関しても、保険会社(資本家)がイニシアチィブを握る構図ができあがっている。急性虫垂炎(盲腸)の治療費が132万円で、保険でカバーしきれず、クレジットカードで払っていくうちに破産宣告となる、という話。経営効率のため医師や看護師の過重労働、また訴訟対策に対する保険金支払いのため医師を廃業せざるをえない、など医療従事者も搾取される側になっている。
 私は4年前にアメリカのある医療施設を見学し、アメリカの医療をうらやましいと思ったものだが、ほんの上澄みだけをみていたということがわかった。
 また、医療費が高騰するなか、日帰り出産が増えているという。すべてにコストがかかり請求される現実の中で、安全が軽視されている。我が国でも近年入院期間の短縮やday surgeryの推進が行われているが、その真意はどこにあるのかと考えると虚しくなる。
 日本はアメリカに戦争で負け、その後の安全保障、経済発展等、多くをアメリカに依存してきた。アメリカをモデルにした政策も多いように思う。今後、日本がこのような状態にならないことを切に願う。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)